FIREという言葉が広まってから、「毎日が旅行みたい」「時間も場所も完全フリー」といったイメージだけが一人歩きしているように感じる。実際、そういう生活をしている人もいると思う。でも、少なくとも我が家のサイドFIRE生活は、そこまで派手なものではない。
サイドFIREを始めて1年。平日の暮らしはむしろ“地に足がついた毎日”になった。その実態を、少しリアルに書いてみたい。
サイドFIRE後の「ある平日」
まずは、今の平日のタイムラインをそのまま出してみる。
- 5:00 起床。軽く朝散歩をしてから、ブログ執筆や調べもの。
- 6:00 朝食・弁当づくりをしながら家族を起こす。
- 7:00 家族で朝食、子どもたちの身支度、登校準備。
- 8:00 妻を見送り、洗濯物・食器などの家事を片づける。
- 9:00 作業開始(ブログ、今後の設計、学びなど)。
- 11:30 作業終了、昼食と休憩。
- 13:00 ジムでトレーニング。
- 15:00 買い物や用事を済ませる。
- 16:00 自由時間(読書、趣味、ぼーっとする時間も含む)。
- 17:00 保育園・学童のお迎え、宿題確認、夕食づくり。
- 18:30 家族で夕食。
- 19:00 お風呂。
- 19:30 自由時間(最近は子どもとポケモン)。
- 20:30 就寝。
文字にすると規則正しいけれど、「めちゃくちゃ自由!」というよりは「ちゃんと働きつつ家事育児もフル参加している生活」に近い。FIREは、サボる権利というより自分で1日の枠組みを決め続ける責任に近いと感じている。
自由だからこそ、自己管理が試される
もちろん、これは“理想形”の1日だ。正直、本気を出せばいくらでも怠けられる。出社もなければ上司もいない。実際、怪我でジムに行けなくなった時期は、リズムが崩れてそのままダラダラと動画を見続ける日もあった。
会社員時代は不満も多かったが、「始業時間」と「締切」というレールが自動的に生活を支えてくれていたのも事実だ。今はそれがない。だからこそ、朝のルーティンやちょっとしたタスク管理など、自分で“最低限のレール”を敷き直す必要がある。
サイドFIREを検討している人には、「時間が余る」のではなく、「時間を管理する主体が100%自分になる」と考えておいてほしい。ここに向き合う覚悟があるかどうかで、生活の質はかなり変わる。
静かなデメリット:「新しい刺激」が勝手にはやってこない
デメリットを挙げるなら、放っておくと人間関係と刺激が閉じていくことだと思う。会社員時代は、良くも悪くも新しい人との出会いやトラブル、イベントが勝手に押し寄せてきた。今は、自分から動かない限り、大きな波はほとんど起きない。
幸い、趣味のスポーツでつながっている仲間がいるので、今は孤独感はない。ただ、このまま歳を重ねると「世界が狭くなる」可能性はあると感じている。だから、新しい趣味を増やすことや、地域のコミュニティに少し顔を出すことは、今後の課題として意識している。
想像以上に良かったこと:メンタルの安定と家族との距離
その一方で、サイドFIREを選んで本当によかったと思う点もある。中でも大きいのは、自分のメンタルが落ち着いたことと、家族との距離が近くなったことだ。
振り返ると、会社員だった頃の自分は、今から思えば常に余裕がなかった。ちょっとしたことで妻と衝突したり、子どもにきつい言葉を投げてしまったり。思い出すと反省しかない。「ごめん」と言いたい場面がいくつもある。
今は、子どもと過ごす時間が増え、気持ちにも余白がある。就寝前、左右の手を子どもたちにぎゅっと握られたまま寝落ちするのは、少し身動きしづらいけれど、この生活を選ばなければ手に入らなかった光景だと思う。
先日、妻からこんな言葉をもらった。
「家族の中に一人、余裕がある人がいると、こっちもいい気分になれるね」
この一言で、サイドFIREを決断したあの日の自分を、少しだけ褒めてやりたくなった。自分が自然体で機嫌よくいられることが、そのまま家族へのリターンになっている。これは金額には換算できない価値だと思う。
もう一度選び直しても、この生き方を選ぶか?
「もう一回やり直すとしてもサイドFIREを選ぶ?」と聞かれたら、迷わず「選ぶ」と答える。
ただし、それは会社員時代が無駄だったという意味ではない。むしろ、あの忙しさやプレッシャー、人間関係のしんどさも含めて経験したからこそ、今の生活のありがたみや、家族への感謝がちゃんと腹落ちしているのだと思う。遠回りも含めて、自分には必要なプロセスだった。
FIREは「逃げ場」ではなく、「生活設計の選択肢」
自分にとってFIREは、「嫌な仕事から逃げる出口」ではない。最低限、家族と自分を守れる土台を整えたうえで、自分たちに合った働き方・暮らし方を選べるようにするための選択肢だ。
どんな生活水準で満足できるのか。何に時間を使いたいのか。どんなリスクなら許容できるのか。これらは人それぞれで、「こうあるべき」という正解はない。だからこそ、数字だけを追うのではなく、パートナーや家族と何度も対話して価値観を擦り合わせることが欠かせないと感じている。
もしFIREやサイドFIREに興味があるなら、一人で検索して完結させるのではなく、ぜひ家族と一緒に紙に書き出してみてほしい。「いくら必要か」より先に「どんな一日なら幸せか」を言葉にしてみると、必要なお金も選ぶべき戦略も、少しだけクリアに見えてくる。
FIRE検討中の人向け:よくある勘違いQ&A
最後に、FIREやサイドFIREを考えている人からよく聞く疑問に、実体験ベースで答えてみる。
Q1. FIREしたら「もう働かなくていい」ですよね?
A. 完全リタイアを目指す人もいるが、サイドFIREの感覚に近いのは働き方の再設計。収入ゼロで一生逃げ切る前提より、「好きな仕事・できる仕事を、自分のペースで続ける」前提の方が現実的でメンタルも安定しやすいと感じている。
Q2. 必要資金はいくらあれば安心ですか?
A. 一律の正解はないが、目安としては「いまの生活費 × 数年分」+「最低限の収入のあて」。重要なのは金額そのものより、支出を把握しているかと減ったときに調整できるか。我が家もサイドFIRE後に積立額は減ったが、仕組みを維持できるラインを夫婦で共有している。
Q3. 家族には、決めてから伝えればいい?
A. 個人的な答えはNO。数字だけ見せて「大丈夫だから」で押し切ると、小さな不安が積もりやすい。生活の変化に巻き込まれるのは家族全員なので、検討段階から一緒に「どんな暮らしにしたいか」を話すことを強くおすすめしたい。
Q4. 孤独になったり飽きたりしませんか?
A. 可能性はある。だからこそ、趣味・コミュニティ・学びをあらかじめ用意しておくのが大事だと感じている。自分の場合はスポーツやブログ、家族との時間がその土台になっているが、「仕事以上に自分を支えるもの」を少しずつ増やしておくと安心。
Q5. 今の仕事がつらいので、とにかく早くFIREした方がいい?
A. 正直に言うと、それは危険寄り。「逃げたい」だけで決めると、その後の時間を持て余す可能性が高い。まずは、転職・働き方の調整・副業など、「FIRE以外の選択肢」も含めて検討してみてほしい。そのうえでなお「この暮らし方を選びたい」と思えるなら、そこから具体的な設計に入るのがいいと思う。
サイドFIREは、完璧な答えでも、誰にでも勧められる万能薬でもない。でも、「家族との時間を増やしたい」「自分のペースで働きたい」という人にとっては、現実的でおもしろい選択肢のひとつだと感じている。興味がある人は、ぜひ数字と感情の両方をテーブルに出して、一度じっくり考えてみてほしい。


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