「新しいゲーム買って!」から見えた、わが家の“倹約DNA”

FIRE

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クリスマスが近づくころ、子どもに「新しいゲーム買って!」と言われました。よくある会話だと思って話を聞くと、今回はソフトではなく本体そのもの。理由は「○○ちゃんの家は3台あって、一人一台だから」。なるほど、友だちの家の“当たり前”が、わが家の基準にもスライドしてきたわけです。

頭ごなしに否定しないことだけは決めています。まず、どんな場面で使いたいかを聞くと、うちでは基本リビングの大きなテレビで家族一緒に遊ぶスタイル。外に持ち出して対戦することもほとんどない。だったら「一台で回せるよね」という話に自然と落ち着きました。子どもは少し残念そうでしたが、「じゃあサンタさんには別のものをお願いしてみる」と切り替え。納得の瞬間って、表情で分かります。

このやりとりで、自分の子ども時代を思い出しました。誕生日やクリスマスには好きなものを買ってもらえたけれど、それ以外のときに「ねぇ、ゲーム買って」は、だいたい通らない。おこづかいの範囲でやりくりするか、次のイベントまで“待つ”。当時は不満もありましたが、今振り返るとその「待つ」が、わが家に流れる“倹約DNA”の起点だったのだと思います。

ここ最近、投資系の動画やSNSを眺めていると「そもそも原資が貯まらない」という嘆きをよく見ます。昔なら「ふーん」で流していたのに、今回の件で少し見え方が変わりました。自分は、親が整えてくれた「使い切らない」環境で育った。だから、社会に出ても自然と“余剰”が残り、貯蓄から投資に移すのも比較的スムーズだったのだと。反対に、毎月きれいに使い切る設計で育つと、余剰を捻出するだけでまず壁になる。習慣というインフラの差は、思っている以上に大きいのだと実感しました。

もちろん、「豊かな家=ゲーム機が何台もある家」と単純化したいわけではありません。価値観も環境も、それぞれです。ただ、一人一台が当たり前の家で育てば、それが日常の標準値になりやすいのも事実。どちらが正しいかではなく、どちらを“わが家の標準”にするかという設計の話。今回の結論は「今の暮らし方なら、一台で十分」。それだけです。

この“標準”は、幸福の感度にも直結します。誰かが言っていました。「幸せのハードルを無闇に上げない方が、不幸になりにくい」と。たとえば、外食は月に1回でも十分楽しめる家で育てば、毎週行かなくても満足は満たせる。モノも同じ。最新機種を“必要条件”にしないと決めておけば、買い替えのタイミングは「壊れたから」や「使い道が広がるから」に寄せやすい。結果として、お金は貯まりやすくなる。これは節約というより、幸福の設計です。

そして、この設計を“次の世代”へどう渡すか。今回の件で、あらためて考えました。子どもは、親の言葉より“家の空気”をよく吸い込みます。「イベントで欲しいものを選ぶ」「ふだんは今あるもので遊ぶ」「欲しいものはリスト化して“待つ”」――そんな空気が当たり前になれば、自然に身についていく。自分の親にきちんと感謝を伝えてこなかったけれど、いまこの年齢になって、ようやく見えるものがある。あの“待つ”は、がまんではなく、未来の自由度を広げるトレーニングだったのだと。

ここで誤解のないように。倹約DNAといっても、何でも我慢しようという話ではありません。わが家にも「気持ちよく使う」ルールがあります。たとえば、体験や記録に関わるものには前向き。家族旅行、写真や動画を残すための道具、学びの書籍など。使うなら「余韻が長いもの」に寄せる。買って終わりではなく、買ってからが始まりのもの。そういうお金の使い方は、満足の持続時間が長い。

子どもの「新しいゲーム買って」に対する親の返答は、その家の哲学そのもの。否定でも甘やかしでもない三つ目の道。「今のわが家の暮らしなら、一台で十分。でも、どうしても誰かと対戦したい日があるなら、それは“イベントの日”にしよう。友だちを呼ぶか、場所を工夫して、いつもと違う遊び方を計画してみよう」。そう提案すると、子どもはすっと納得してくれました。欲求をゼロにするのではなく、形を変えて満たす。これが、わが家の落としどころです。

あらためて思うのは、家計の最適化は節約テクよりも「基準づくり」だということ。標準値が高すぎると、どんなテクニックも焼け石に水になりやすい。逆に、標準値を意図的に低めに置きつつ、“たまに上げる”イベントを設計すれば、日常は穏やかに、非日常は濃くなる。これはFIREを目指す家庭にも、そうでない家庭にも役立つ視点だと思います。

最後に、個人的な目標を。自分は、おそらく困らない程度にはこの先もお金を保てる。それは、親から受け取った倹約DNAと、自分で育てた投資習慣の合わせ技。これを子どもにも手渡したい。ただし、コピーではなく、その子の人生に合った“編集”で。欲しいものを「ダメ」と言い切るのではなく、「どうすれば満足できるか」を一緒に考え、待つ力や置き換える力を育てたい。わが家の空気が、そのまま子どもの未来のインフラになると信じています。

ゲーム機は一台。けれど、楽しみ方は無数にある。お金の使い方も同じ。選択肢を増やすのは、いつだって今の“基準”から。倹約は、削ることではなく、選べる未来を増やすこと。子どものリクエストから、そんな当たり前をもう一度、胸の真ん中に置き直しました。

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